第十四回 グルッペC

2019 3/26  

 

私は日本という国が大好きですし、この国に生まれて本当に幸せです。
地震が間近に迫ろうと、この国を出たいと思った事はありません。

オリンピックではやはり日本選手を応援しちゃいます。


モータースポーツ
運動音痴でスポーツに疎い私が30年以上追いかけている唯一の不思議スポーツ

出会いはWSPC。
スポーツプロトタイプというマッチ箱のような奇怪なクルマが悪魔の様な音を響
かせながらありえないスピードで走っていました。
そして、運良くその年のル・マン24をチラリと見れて人生が変わったと思いま
す。

当時はCカー、現在ではルマンプロトタイプと呼ばれるこのマッチ箱がアホみた
いに長い直線を目一杯飛ばしている姿に完全にヤラれました。
ル・マン24時間レースはチラ見な上にカーレース自体の知識も無かった事から
全く理解出来ていませんでしたが、めちゃくちゃ楽しかったです。

翌87年、ル・マンを比較的しっかり見れました。
8時間の時差でスタートから一時間半程、その後24時間のうちちょろちょろっ
と一時間程の中継が散発で放送されます。

私はまさか、スタートしたあの車両達が24時間ぶっ通しで走り続けているなど
夢にも思いませんから放送の時だけレースが始まって、またお休みやから中継が
終わる、それを24時間の間に何回かすると思っていました。

その後刊行されているル・マンの本を読んで一応の全貌を知り、その年から見始
めたF-1そっちのけでハマりました。


私が幼心にモータースポーツに受けた印象は勝ったのは一体、誰? 何? とい
う事です。
チーム、マシン、ドライバー、関係者、とにかく人がいっぱい居る。
捻くれた私の目にはどう見てもドライバーが主役ではない。
そして色々な国が出走しているにも関わらず「国」、が見えなかったです。
スイスチームがドイツマシンにイギリス人を乗せて勝利。
なるほど、兎に角、勝利する為に使えるものは何でも使う。

最もユーロ圏内でのホワイトなノーボーダー感なだけで当時は黒人のドライバー
は勿論、スタッフも居なかったと思いますし、モータースポーツは欧州の文化な
ので他所者は来んな、という敷居はあります。
差別もあるでしょう。

そういう事に気付かなかったのと、単純に一台の車両が優勝して歓喜に狂気で乱
舞する人間が異常に多いのと、現場で携わるニイちゃん、ねえちゃん、おっさん
、おばはん、痩せ、太っちょ、ノッポにチビ、金髪、黒髪、ハゲ,ヒゲ、ロン毛
、目の色も様々。
バラッバラな人間がこんなにも多くて、個々の支え具合は知らんけど全員が自分
が優勝したかのようにめっちゃくちゃ喜んではるのが不思議で素敵だと思いまし
た。

多くの部品で出来上がる一台のマシン。
これを出走させ、優勝を目指す全ての人とモノと場所が部品のように坦々と高次
元の仕事をこなしてチェッカード。
表彰台に上がるのはドライバーです。
役割は比較的大きいですがあくまで部品の一つでしかない魅力。


ル・マンのような凶悪レースで勝利するには現実的な目に見えるライバルに勝て
ても「ル・マン24」という最強の最終ボスに暴かれて順位を落とし、そしてリ
タイアさせられる。
個人的にこのル・マン程極端にドライバーが勝利への一要因にしか見えないレー
スは他にありません。
微に入り細を穿つ、なんて言葉が薄っぺらくなる程に一年かけて徹底的に仕込ん
だ結果、スタート後数時間でドカン!
或いは23時間54分経過したところでプシュ~・・・!! リタイア・・・

この悲しみに日本もガイジンも無いなぁって。

ルール改正で事実上最後のル・マンになるであろう背水の陣。
誰も経験した事の無い優勝への数時間。
時計が壊れたとしか思えないほどに一瞬一瞬を感じ過ぎながら到来する24時間
目。

この喜びと渇望に国籍も人種もないかなぁって。

今年F-1でホンダがやっとこさで、いい出だし。
去年ル・マントヨタが、日本チーム、日本マシンにスペイン人、日本人、スイ
ス人ドライバーで遂に優勝。
日本人ドライバーがより身近には感じるものの、彼らを大好きな世界中のモータ
ースポーツ稼業の一要員としか感じない所がたまらないのです。


オリンピックやワールドカップサッカー等の「国」対「国」の興奮と感動、良い
です。グッときますよ。

でも、ドイツ人ドライバーがイタリアチームで勝利した時、双方に於いてその価
値は同等に最高なものであるという事実。
ブラジル人のセナ選手が当時お世辞にも調子が良いとは言えないイタリアの名門
フェラーリのシートを渇望していたという独特の価値世界。

当時嘘か誠か、異常な勝利執着者のセナが
「勝てなくてもいい、フェラーリに乗りたい。」と。
多分本当だと思います。
尤も数日、或いは数時間後には 「うそ、やっぱり勝ちたいww」 ってなった
だけで。


サッカーやバスケも○○国のチームに世界中の関係者と能力者が集いゴールを狙
う。
何となく同じなんですが、多くの人間の思いと時間と莫大な金が最終的にはタイ
ヤ4本が接地する僅かな面積にのみ出力されるロマン。
運と情熱と能力により選ばれしちっぽけな人々が背伸びして目一杯伸ばした手で
掴もうとする栄光が、全人類共通の凡ミスや目に見えない自然のイタズラでプイ
っと足元をすくわれるドラマ。

これかなぁ~。
いや、ちゃうかなぁ~?